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小田原のどかつなぎプロジェクト「彫刻選挙」の速報レポートを公開します。 – つなぎ美術館
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小田原のどかつなぎプロジェクト「彫刻選挙」の速報レポートを公開します。

開票レポート:津奈木町「彫刻選挙」を終えて

小田原のどか

「小田原のどかつなぎプロジェクト2023」の一環として、津奈木町の16体の屋外彫刻を活用し、9月9日から11月23日まで開催された「彫刻選挙」が終了しました。
展覧会最終日、私はプロジェクト実行委員会のみなさんとともに開票を行いました。
開票に際しては、つなぎ美術館の投票会場の結果とともに、町内2ヶ所の老健施設で実施した出張投票の結果も加わっています。
最終的に、有効票は1199票でした。各彫刻の得票については、以下をご覧ください。

《千代》2003年設置、岩野亮介作、津奈木駅前 146票
《風ん子》1988年設置、岩野勇三作、茜橋 127票
《時のカプスール》1992年設置、松尾光伸作、つなぎ百貨堂前 111票
《那有》1990年設置、岩野勇三作、津奈木町役場庁舎前 92票
《ひまわり》1997年設置、佐藤忠良作、津南橋 91票
《はぐれっ子》1990年設置、岩野勇三作、津奈木町役場庁舎前 89票
《牧歌》2000年設置、岩野勇三作、舞鶴城公園展望所 87票
《ときの翔》1991年設置、松尾光伸作、つなぎ文化センター前 78票
《爽風》1985年設置、岩野勇三作、あけぼの橋 76票
《トルソ》1993年設置、佐藤忠良作、つなぎ美術館前 69票
《立球体・誕生》2014年設置、本田貴侶作、つなぎ温泉「四季彩」前 61票
《薫風》1987年設置、岩野勇三作、津奈木大橋 48票
《たわむれの塑像》1997年設置、つなぎ温泉四季彩駐車場横 41票
《シャツブラウス》1994年設置、笹戸千津子作、つなぎ百貨堂前横 38票
《まつり》1990年設置、岩野勇三作、つなぎ温泉四季彩内 30票
《若い女》1984年設置、岩野勇三作、津奈木町役場庁舎玄関入口 15票

ここでは、「開票レポート」として、この度の津奈木町「彫刻選挙」を振り返りたいと思います。
まずお伝えしたいのは、「彫刻選挙」実施の意図についてです。
「彫刻選挙」でわたしは、人気投票をしたかったわけでも、当落を決めたかったわけでもありません。
そうではなくて、投票というものを通じて、今いちど屋外彫刻がある意味を考える機会をつくりたかったのです。

1970年以降、日本各地で「彫刻のある街づくり事業」が実施されました。1984年から始まり、「水俣病からの地域再生」という使命が課せられた津奈木町の彫刻設置事業は、とくに興味深い事例のひとつと言えます。

今回の彫刻選挙でいちばんの票を得た《千代》は、津奈木町に伝わる説話をもとにした彫刻です。
「なぜこの場所にこの彫刻が置かれているのか」を考えるうえで、《千代》はもっとも津奈木町と関わりが深い彫刻です。
また、「彫刻選挙」に伴うアンケートには、「(《千代》が)駅前に設置されており印象に残った」というものが見られました。
津奈木町の方に千代の説話に親しみを覚えている人が多いこと、町外から鉄道で来場した方へのインパクトなどが、高い得票を得た理由だと考えられます。

さて、私には、津奈木町の「緑と彫刻のある街づくり事業」を代表する彫刻とも言える《薫風》《爽風》の苦戦が印象的でした。
美術館に隣接する日帰り温泉施設「四季彩」の暖簾の絵図として、あるいは津奈木郵便局のスタンプとしても活用され、津奈木町のシンボルとなっている《薫風》《爽風》は、金箔で覆われ、夜間はライトアップされており、強烈な印象を与えます。

《薫風》《爽風》のように町内に多く設置されている裸体彫刻がはらむ問題については、津奈木町が配布する『広報つなぎ』をふまえて本展に関連して発行した『勝手に・広報つなぎ』に短いコラムを書きましたが、公共空間の裸体彫刻とはある意味で、戦後の日本を象徴しているとも言える存在です(参考:https://artscape.jp/focus/10144852_1635.html)。
《薫風》《爽風》の彫刻選挙での苦戦は、裸体彫刻の苦難の時代を体現しているようにも思えました。

投票という行為においては、白票や無効票も重要です。このたびの彫刻選挙では、何らかのメッセージを込めた無効票はありませんでしたが、何も選ばないことを選ぶこともまた、公共彫刻を考えるうえで必要です。津奈木町だけではなく公共彫刻の設置に際しては、住民の意見が反映される機会が設けられることは非常にまれです。公共彫刻とは、いったい誰が選んだものなのでしょうか? 白票はそのことを気づかせてくれるように思います。

「投票というものを通じて、今いちど屋外彫刻がある意味を考える機会をつくりたかった」と冒頭に書きました。その目論見の記録として、ぜひ「小田原のどかつなぎプロジェクト2023」報告冊子(2024年2月完成予定)をご覧ください。より詳しい開票レポートも収録されます。そしてまた、今回の彫刻選挙・開票を受けて展開される「小田原のどかつなぎプロジェクト2024」にもご期待いただければ幸いです。

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